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 1879年頃に発明されたダービー・スチーム=ディガーは、おそらく世界でも最初期に開発された乗用型トラクター。
 イングランドのエセックス州チェストフォードの農夫トーマス・ダービー氏が独力で発明したらしいのですが、蒸気機関で駆動し、6本の犂(すき)状の脚で畑を「歩行しながら」耕すことができたといいます。

 蒸気式多脚乗用耕耘機とでもいうべきでしょうか、件の「ダービー・スチーム=ディガー(Darby Steam-Digger)」は、1エーカー(4046m2)の土地を最大360ミリの深さで1時間で耕すことができたといいます。ただしプロトタイプは実用には今一つ及ばす、しばしば「ジャンプ」してしまったのだとか。つまり犂状の脚で跳ね上がってしまうことがあったということなのでしょう。

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 写真のイメージではムカデのように横方向に進む感じがしますが、実際は写真奥へと6本の脚が押し込むような感じで進むらしい。厳密には歩行といえるものではありませんが、そういう解釈もそれはそれで楽しい。

 なお、上写真でスチーム=ディガーを運転しているのは、開発の協力者となった鍛冶屋のロバート・ハスラー氏。彼の協力でその後も開発は続けられ、2号機、3号機の蒸気トラクターが生み出されることとなります。

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2号機『ダービー・ブロードサイド・ディガー』

 セカンド・バージョンでは、1号機の欠点を補うために車輪式に変更されています。『ダービー・ブロードサイド・ディガー(Darby Broadside Digger)』として知られる2号機はダブルボイラーを持つ巨大な農耕機械で、8脚の犂でガシガシと土を耕しながら進みました。

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ダービー・ブロードサイド・ディガーのスケールモデル(画像共にTYLER STEAM MODELS

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 写真のスケールモデルでは機械式の犂は5本ですが、実際のダービー・ブロードサイド・ディガーでは1号機よりも2本多い計8本。各画像を参考にすれば、1号機の全体像もイメージしやすい。


Savages, Darby Broadside Steam Digger 6NHP in 2 inch scale.mpg

 動画は1970年代にコリン ・タイラー氏によって製作された、ダービー・ブロードサイド・ディガーのスケールモデル。下の動画では実際に土を掘り返しながら進む様子が確認できます。


Savages, Darby broadside steam digging engine.mpg

 ちなみにダービー・スチーム=ディガー3号機は、より多くの機械式の犂を装備しており、一般的なトラクションエンジン(蒸気式トラクター)のようなスタイルだったといいます。

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 トラクションエンジンは20世紀初頭にかけて多く生産されており、上の画像は参考画像。特にイギリスのファウラー社は農耕エンジンの多くのタイプを生産しており、もっともポピュラーな製品として利用されました。

[1879: The Darby steam-digger
[TYLER STEAM MODELS]

●おまけ:Steam Scenesというサイトでは画像コレクションやファウラー社による農耕エンジンの一覧を確認でき、かなり参考になります。

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ブライアン・J・ロブ ジェイムズ・P・ブレイロック 日暮雅通

原書房 2014-01-30

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