Graphic - DARPA Robotics Challenge

 2012年の公式発表以来、ようやく開催の運びとなった「ロボティクス・チャレンジ」。米国防総省の機関であるDARPA(米国防高等研究計画局)主催の災害用ロボットのトライアルとして、付録部でもたびたび取り上げてきました。
 1年余の準備期間をはさみ、フロリダで第1回ロボティクス・チャレンジが開催されたのは、12月20日と21日の2日間。
 ボストン・ダイナミクスをはじめ、NASAやロッキード・マーティン先端技術研究所などの宇宙・軍需系企業ら錚々たる参加チームが名を連ねる中、首位を勝ち取ったのは日本のベンチャー企業「SCHAFT」社のチームでした。

 今回は付録部年末企画として、これまでの記事を振り返りつつ、ロボティクス・チャレンジまとめをお送りします。

schaft2-1387604230764
日本から参加した「SCHAFT」

 付録部で初めてロボティクス・チャレンジを取り上げたのは、昨年の4月17日。該当する記事では、当時発表されたトライアルの内容や競技の概要などをお知らせしていました。

1. 業務用車を現場で運転する。
2. 下車し、がれきの上を移動する。
3. 入り口をふさぐがれきを除去する。
4. ドアを開けて建物の中に入る。
5. 工場用ハシゴを上り、工場の通路を移動する。
6. 道具を用いて コンクリート板を突破する。
7. 漏れているパイプを発見し、近くのバルブを閉める。
8. 冷却用ポンプのような部品を交換する。

 記事では競技プログラムに当たるタスクの内容の他、トライアルのコンセプトとなる災害対策の一例として、福島第一原子力発電所をはじめとする原発災害の現場を想定しているなどの内容を記しています。
 当時発表された開催期間やタスクの詳細など、予定とは異なる内容がある一方、実際の競技のスコアリング・システムなどが後に具体的に公表される運びとなります。

タスク:車両の運転(DRC Task: Vehicle)


タスク:段差のある通路を進む(DRC Task: Terrain)


タスク:瓦礫の除去(DRC Task: Debris)


タスク:ドアの開閉(DRC Tasks: Door)


タスク:ハシゴを上る(DRC Task: Ladder)


タスク:道具を用いた壁の突破(DRC Task: Wall)


タスク:ホースの接続(DRC Task: Hose)


タスク:バルブの開閉(DRC Task: Valve)


 そして続報をお伝えしたのが、2012年10月の記事。主要となる内容は、参加チームのロボット一覧でした。
 その中で、当時発表されたチームとして、ロッキード・マーティン高度技術研究所、カンザス大学、カーネギーメロン大学、マサチューセッツ工科大学、TRAC研究所、ワシントン大学、フロリダ研究所(IHMC)、ベングリオン大学、米航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所 、TORC Robotics社などの参加予定リストと、コンセプト画像も併せてご紹介しています。

 日本からの唯一の参加となるSCHAFT社については、HRP-2用として設計されたハードウェアに基づく二足歩行ロボットを提案していることを付記。
 しかし、当初の予定と開催競技とでは変更点も見られました。

spectatormap1
(ソース:Spectators | DRC Trial

 競技が行われたのは、フロリダ州にあるホームステッド=マイアミ・スピードウェイ。野外イベントとして開催され、競技は全て無料で公開されたとのこと。災害対策をコンセプトに各種トライアルが配置されたコースの詳細は、上掲の画像で確認することができます。

 参加できなかった中国チームは別として、ロボットの不調のため出場を見送ったKairos Autonomi社など、全16チームがロボティクス・チャレンジに参加。出場するロボットの詳細についても、ようやく明らかとなりました。

・トラックAチーム

LargeBaseballCard_RoboSimian_darpa_mil
 NASA ジェット推進研究所から参加の「RoboSimian(ロボシミアン)」。

LargeBaseballCard_TartanRescue_darpa_mil
 カーネギーメロン大学より参加の「Tartan Rescue(CHIMP)(タータン・レスキュー/チンプ)」。

LargeBaseballCard_Valkyrie_darpa_mil
 NASA ジョンソン宇宙センターより参加の「Valkyrie(ヴァルキリー)」

LargeBaseballCard_SCHAFT_darpa_mil
 日本から参加のSCHAFT社「SCHAFT(シャフト)」

LargeBaseballCard_Hubo_darpa_mil
 ドレクセル大学(アメリカ)とレインボー社(韓国)は、共に「DRC-Hubo」で参加

LargeBaseballCard_THOR_darpa_mil
 ヴァージニア工科大学より参加の「THOR-OP(ソー)」


・トラックB / Cチーム

LargeBaseballCard_IHMC_darpa_mil
 IHMCロボティクス社のほか7チームが各社ごとに技術を投入し、同時参加している機体が、ボストン・ダイナミクス社とDARPAの開発した「Atlas(アトラス)」。

LargeBaseballCard_ViGIR_darpa_mil
 同じアトラスでも、WPI Robotics Engineering C Squad (WRECS)による「Florian(フロリアン)」は外板が張られており、かなり印象が異なります。


・トラックDチーム

LargeBaseballCard_Chiron_darpa_mil
 Kairos Autonomi 社より参加の「Chiron(カイロン)」

LargeBaseballCard_IntelligentPioneer_darpa_mil
 インテリジェント・パイオニア社より参加の「Intelligent Pioneer Robot」

LargeBaseballCard_Mojavaton_darpa_mil
 Mojavaton 社より参加の「Buddy(バディ)」

 その中でも、個別の記事として付録部で取り上げていたのが、DARPAとボストン・ダイナミクスの共同開発による「アトラス」。アーク・リアクターやフラックス・キャパシターを思わせる、胸部で発光するコアを装備したアトラス君の強烈なSF的クオリアは、究極ロボ誕生の予感さえ感じさせるものでした。

ihmc1-1387604364242

 今回のトライアルでは、DARPA貸与のアトラスに独自のソフトウェアを搭載するかたちでの参加も認められているため、計7チームが共通した機体を使用する結果となっています。

 その他、諸事情により記事化を見送ったロボットとして、ジョンソン宇宙センターが開発した「ヴァルキリー」がありました。
 同様の内容については、管理人もライターを務める Kotaku JAPAN の関連記事“NASAが開発したスーパーヒーロー・ロボット『ヴァルキリー』”で確認することができますが、やっぱりちょっと書いてみたかったかも。

 こうして開催された極限のロボット競技会『DARPA ロボティクス・チャレンジ(DRC)』ですが、初日からぶっちぎりの高得点をたたき出したのが、日本から参加した「SCHAFT(シャフト)」でした。

 各チームのスコアについては、初日の予備得点がこんな具合。

drc_fri_score-1387608828386

 シャフトの18点に続くかたちでスコアを稼いでいるのが、MTIの12点。
 この時点で二桁の点数に達しているのは両者のみで、その次にトラックラボの9点が続き、WRECS、TORCロボティクス社によるチームVIGER、チーム・ソーが各6点、IHMCロボティクス社が4点、ロッキード・マーティンによるチーム・トルーパーが3点、DRC-Hubo、KAIST、タータン・レスキュー、ロボシミアンが各2点、HKU(香港大学)が1点。その他はゼロ得点となっています。

 そしてトライアル2日めの、最終スコア表がこちら。

darpa-drc-final-score-1387672637012

 1位のシャフトが順調に点数を重ね、27点に達しているのに比べて、暫定2位だったMITは4位下落と伸び悩み。IHMCロボティクス社が一気に点数を稼ぐことで、2位へと躍り出ています。
 タータン・レスキューやロボシミアンも飛躍的な伸びを見せ、下位だった先日から一気に上位へとランクイン。NASAが鳴り物入りで開発したスーパーロボット「ヴァルキリー」は、最後まで得点ゼロという結果に終わっています。

 各タスクでの最高得点チームは、以下のような結果に。

・Vehicle: WRECS
・Terrain: SCHAFT
・Ladder: SCHAFT
・Debris: SCHAFT
・Door: IHMC Robotics
・Wall: IHMC Robotics
・Valve: THOR
・Hose: SCHAFT

 決勝戦となる来年の「ロボティクス・チャレンジ」に参加できる資格を得たのは、上位8チームのみ。シャフト、IHMCロボティクス社、タータン・レスキュー、MIT、ロボシミアン、トラックラボ、WRECS、チーム・トルーパーが優勝をかけた熾烈な最終トライアルを競うこととなります。



 そのSCHAFTですが、グーグルにより買収されたとの報道が流れたのが、12月4日。それに続いてボストン・ダイナミクス社まで買収というのですから、グーグル先生はかなりロボット開発に力を入れている様子。

 それにしても――今回の競技が米軍需産業の主催であることなどから東京大学が研究を行えず、そのために研究者が独立を選択しなければならなかったのが「SCHAFT」設立の理由の一つだったはず。
 軍需開発ができないゆえに技術の国外流出という損失を招くなんて、なんという本末転倒な話だと思う。もっと柔軟な制度を切望したいところです。

 日本のものづくりはまったく終わっていないと感じた一方、技術がこうして流出していくんだな、とガッカリ感も禁じえない大会となりました。

付録部ロボティクス・チャレンジ/タグ一覧

 なお、各トライアルの詳細な動画についてはYouTubeのDARPAチャンネルIEEEの特集記事などをご参照ください。

[DARPA Robotics Challenge Trials: What We Learned on Day 1 / DARPA Robotics Challenge Trials: Tasks and Scoring / DARPA Robotics Challenge Trials: Final Results / DRC Trials / DARPA / 参考:WIRED]

ロボットテクノロジーロボットテクノロジー
一般社団法人日本ロボット学会

オーム社 2011-08-26

ロボットテクノロジー