Pitch_drop_experiment_with_John_Mainstone

 以前にも、世界一退屈な実験としてお届けしたことのある「ピッチドロップ実験」が、ついに決定的瞬間を迎えようとしています。
 CNNの伝えるところ、今後数カ月、あるいは「もしかしたら数週間」のうちに9滴目が落ちる見通しだという、悩ましき粘弾性樹脂「ピッチ」。これまで、なんとなく決定的瞬間を見逃してきてしまったジョン・メインストーン教授でしたが、今度は3台のウェブカメラを設置し、準備万端なようです。

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 ピッチとは、流体の特徴とされる“粘性”と、個体の特徴とされる“弾性”の両方の性質を示す“粘弾性”という特徴を持つ樹脂の総称。
 石油から精製されるピッチを歴青(ビチューメン)、植物樹脂から生成されるピッチをロジンと呼びます。
 実験で使用されているのは前者で、アスファルトである歴青の滴下をひたすら見守り続けるという気の遠くなりそうな実験です。

University_of_Queensland_Pitch_drop_experiment-white_bg
(ピッチドロップの実験装置)

 一見個体に見えるピッチが、実は流体であることを証明することを目的とするもっとも有名な実験は、1927年にオーストラリアのクイーンズランド大学で、故トーマス・パーネル教授によって始められました。
 最初のしずくが落下するまでに10年を必要とした実験は、現在までに8度の滴下を示していますが、その瞬間を目撃した人は存在していません。

 しかしこれまでの成果から、実験に使用しているピッチが「水のおよそ230億倍」の粘性を持っていることが算出されています。

Pitch-Drop-March-2013-credits
(ひたすら観察し続ける....)

 生涯で2度の滴下を体験したパーネル教授もその瞬間には立ち会うことができず、力尽きてしまいます。
 その実験を引き継いだのが画像の人物、ジョン・メインストーン教授。
 メインストーン教授は、パーネル教授のもと実験を管理していた頃から数えて、通算7度の滴下を体験していますが(研究を引き継いでからは5度)、その全てを見逃しています。

 以下にピッチドロップの年表を示しますと、

・1927年:実験開始
・1938年12月:1滴目が落下(パーネル教授見逃す)
・1947年2月:2滴目が落下(両教授、見逃す)
・1948年:初代トーマス・パーネル没
・1954年4月:3滴目が落下(観察者おらず)
・1961年:メインストーン教授が研究を引き継ぐ
・1962年5月:4滴目が落下(見逃す)
・1970年8月:5滴目が落下(見逃す)
・1979年4月:6滴目が落下(見逃す)
・1988年7月:7滴目が落下(見逃す)
・2000年11月28日:8滴目が落下(ウェブカメラ故障)
・2005年10月:両教授イグノーベル賞をダブル受賞
・2013年 9度目の滴下? ←イマココ


 79年の6滴目の滴下では、普段は欠かさない日曜日のチェックをたまたま省略したタイミングで落下、88年には、たまたま朝食を取りに行っていた5分間の退席で落下、2000年には設置していたカメラの故障で何も映っていなかった、というタイミングの悪さ。
 しかもこのピッチというシロモノ、まったく動かない癖に落ちる時だけムチャクチャ早く、わずか“10分の1秒”の間にしずくが落ちてしまうのだそうです。そりゃ見逃すわ。



(動画は、2012年4月8日から2013年4月10日までのピッチドロップ実験を、10秒にまとめたタイムラプス)

 今度こそ見逃さないぞとばかり3台のウェブカメラを設置し、万全の態勢で決定的瞬間に臨んでいるメインストーン教授。
 ウェブカメラの映像は、クイーンズランド大学のウェブサイトから、Live view で確認することができます。
 秒針が動いているだけにしか見えないけど、これが世紀の一瞬を映し出してくれることを祈ります。今度は故障しませんように....。

 ちなみにこの実験は、もっとも長期にわたるラボ実験としてギネス世界記録にも認定されており、漏斗に残っているピッチの量から、あと100年は実験を続けることができると見積もられています。

(Via.CNN.jp

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