CLARITY_newsprint

 脳から脂肪を除去すると透明になるという時点で驚きですが、米スタンフォード大学の研究者である Karl Deisseroth 博士と彼のチームが発表したのは、マウスの脳をシースルーにしてしまったという技術。
 MRIなどを用いた従来の方法では実現しなかった、ニューロンの詳細な生体構造や分子組成を、「透明化」によって、より視覚的に行うことが可能になっています。確かに脂質膜は光を遮りますが、ここまで透明になってしまうとは驚き以外のなにものでもありません。

CLARITY_brain

 オンライン版のNatureで発表された研究では、チームの考案する CLARITY という作業を行うことで、マウスの脳を透明化することに成功しています。
 上画像や動画は、神経伝達物質などの微視的存在を光学化した上で、丸裸にされたマウスの脳を示すもの。



 この技術が脳の研究をこれまでの10倍から100倍へと加速させると語る研究者もおり、また、研究の一部に資金を提供した米国精神保健研究所の責任者トーマス・インゼル氏は、「これは脳の神経解剖を行う上で、ここ数十年にもたらされた研究のもっとも重要な進歩のひとつだ」と述べています。

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(CLARITY プロセスを経て、2日間で透明化したマウスの脳)

 では、脳を透明化する「CLARITY」という作業がどのように行われるかというと、基本的には脳の脂質をヒドロゲルという一種の寒天質に置き換えることによって行われるようです。
 取り出されたマウスの脳を、アクリルアミドと呼ばれる化学溶液で満たすことで脳から脂質を抽出し、ヒドロゲルに置換することで、脳とヒドロゲルのハイブリッドとも呼べる透明化した脳が生成されるというものであるらしい。

CLARITY_stained

 この技術を適応することで、脳の皮質の外層や、視床などの深構造、またニューロンにいたるまでを蛍光標榜することが可能となり、現在行われているスライス画像とは桁違いに鮮明な分析を行うことが可能となります。

 米国立衛生研究所の神経科学者ヴァン・ウェッデン氏は、すでにMRI(磁気共鳴映像法)をもとにした脳地図を補う重要なデータを得ることができたと述べており、研究の成果は着実に形となっているようです。



 ちなみに、マウスと同様の「CLARITY(透明化)」プロセスが人間の脳にも応用できることが、死後6年を経た自閉症患者の脳の小片を“クリアにする”過程で判明しています。
 つまり将来的には、ヒトの脳を丸ごと透明化できる可能性も排除されてはいないというわけでしょうか?

invisible-man

 すわ透明人間の実現か――と思ってみたものの、脂質を透明化できたところでコレステロールが透き通った変な人間ができあがるだけみたいです。
 もちろん、生体に応用はできないんですけどね。

 最後に、この技術がアルツハイマーや統合失調症などの脳疾患を治療することに繋がる可能性については、いまだ未知数であるとのこと。
 研究を率いた Deisseroth 博士は、自らの研究が現在の脳医療を代替するものではなく、あくまでも補完する技術であることを強調しており、新たなアプローチがすぐに治療に適応されるものではないと語っています。

(Via.Daily Mail / Nature / Stanford University)

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