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 アルジャーノンが現実に――?
 思わずそんなことを考えてしまうのは、米ロチェスター大学のスティーブン・ゴールドマン研究室が行った、ネズミの知能向上実験。
 実験は、ヒトの中枢神経から採取した“グリア細胞”を、生まれたばかりのマウスの脳に移植することで行われたもの。その結果、ヒトの脳細胞を移植されたキメラマウスには、飛躍的な学習能力の拡大が確認されました。

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 “神経膠細胞(しんけいこうさいぼう)”とも呼ばれるグリア細胞ですが、これは神経系を構成する細胞の中でも、特に神経細胞(ニューロン)ではない細胞の総称とされるもの。

 これまでグリア細胞は、周辺組織の恒常性を維持するような比較的静的な役割を演じていると考えられてきましたが、近年では神経細胞(ニューロン)だけが担うとされてきた、シグナル伝達などの動的な役割も果たしていることが明らかになってきています。

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(マウスの細胞が赤、ヒトの細胞が緑で示されます)

 中枢神経組織内にはアストロサイトオリゴデンドロサイトミクログリアという三種類のグリア細胞が存在しますが、今回の実験では、移植マウスが維持するネイティブの神経回路網を、ヒトのグリア細胞が包み込むように広がっていく現象が確認できたといいます。

 研究を主導したスティーブン・ゴールドマン博士は、「これは人間のグリア細胞に独自の機能的利点があることを初めて実証したものであると考えている」と語っています。
 チームの研究者はマウスの認識能力を“鋭く強化する”ことができたと述べており、これらの改善は、記憶、学習など適応可能なコンディションの多くに増加を示したとのこと。また、成長した移植マウスの脳波の伝達速度は通常のマウスよりも早く、ヒトの脳組織に類似するものであったそうです。

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 ヒトのグリア細胞を移植されたキメラマウスは、バーンズ迷路においても長期的な学習能力の強化を示しており、他の齧歯類のグリア細胞を移植されたマウスには変化を見ることはできませんでした。

「肝心な点は、これらのマウスが既存の神経回路網の範囲内で、可塑性と学習の増加を示したということです。そして以上のことは、彼らの機能的な能力を根本的に変えるものなのです」とゴールドマン博士は述べており、また、「人間のグリア細胞には知的能力と認識処理の機能において、ある種の特異的な役割があることを教えてくれる」と語っています。



 研究の最終的な目標はグリア細部を解明することで人間の脳疾患の治療に結びつけることにあるそうで、2月にはゴールドマンの研究チームがCell Stem Cellに論文を公表しています。

(Via.Daily Mail / io9)

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