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 殺しても死にそうにない――そんな形容詞がありますが、マイケル・マロイ(Michael Malloy, 1873-1933年2月22日)の場合は、正真正銘の不死身の男として犯罪史にその名を刻んでいます。

 別名「耐久性のマイク」あるいは「アイアン・マイク」とも呼ばれるマイケル・マロイは、アイルランド出身。ドニゴール州から1920年代にニューヨークに移り住んだというマロイは、当初は消防士をしていましたが、後にホームレスに転落してしまいます。
 ご紹介するのは、5人の悪人によって殺害計画を試行されること30数回に及びながら、そのことごとくを生き延びたという禁酒法時代の不死身の酔っぱらい伝説です。

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 企てられた保険金殺人

 マロイ殺害計画は1933年1月に始まりました。
 当時すでに60歳の初老に差し掛かっていたマロイは、飲んだくれのホームレス。清掃人夫や棺桶磨きなど、その日暮らしで辛うじて活計をつなぐ人物でしたが、そんな彼に目をつけたのが5人の小悪党。

 後に新聞の見出しから「マーダー・トラスト」と呼ばれることになる、トニー・マリーノ、ジョセフ・マーフィー、フランシス・パスクア、ダニエル・クリエスバーグ、そしてハーシー・グリーンの5人は、この名もなき老人に3つの保険金をかけた上で殺害する計画をくわだてました。

 失敗続きの殺人計画

 計画によれば、不慮の死により死亡したマロイの保険金は3500ドル(2011年の基準では61000ドル以上)。保険金は全て彼らの懐に転がり込むはずでした。マロイ殺害のためにトニー・マリーノはもぐりの酒場まであつらえ、無料のウイスキーを餌に彼を誘い出します。

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(トニー・マリーノの用意したもぐりの酒場,1933)

 すでに述べていますが、時はボルステッド法、いわゆる国家禁酒法が規定されていた時代。マロイにとっては酒を都合してくれるマリーノの酒店は得がたい場所であったでしょうし、また腹に一物ある5人も、当初は老人であるマロイが急性アルコール中毒で呆気なく死ぬだろうと踏んでいました。
 ところが朝までしこたま飲んでも、マロイは倒れません。

 そこでリキュールに不凍液を混ぜてしとどに飲ませたところ、さすがのマロイも気絶してしまいます。しかし朝になるとマロイは何事もなかったかのように起き出す始末。
 唖然とした彼らは、次にテレビン油、テレビン油がダメなら馬用のリニメント剤、最後に殺鼠剤まで飲ませますがマロイは平気な顔をしています。

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(若い頃のマイケル・マロイ)

 続けられる殺人計画

 それでもマロイ殺害を諦めない5人は奸智をめぐらし、メタノールに浸した生牡蠣、毒を混ぜたイワシのサンドイッチ、カーペットの鋲(びょう)やガラスと金属の削りくずのサンドイッチ....などなど、夜毎のようにありったけの殺人アイデア料理と毒酒でもてなし、マロイを殺害しようと試みます。

 しかしその全てが失敗した時、彼らはマロイの鉄の胃袋の前ではあらゆる毒は不毛なのだと悟ります。そこで気温がマイナス14度に達する極寒の夜に彼を公園に放置し、5ガロン(約19リットル)の水を裸の胸に注ぐことで凍死させようと目論みました。
 にもかかわらず、朝になるとマロイはケロリとした顔で街に現れます。

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(“マーダー・トラスト”の4人)

 ついに実行される殺人

 彼らは遂には、自称キラー通りと呼ばれる自動車の激しく行き交う通りに、酔わせたマロイを誘い出します。思惑どおりにマロイがタクシーに跳ねられた時、彼らの計画は完遂されたと思われました。
 しかし毎時45マイル(時速72キロ)で疾走するタクシーに跳ね飛ばされたマロイは、骨折で全治3週間という診断。軽傷とはいえませんが、命にかかわる怪我でもありません。
 そして治療を終えケロリとして街に現れた彼の姿には、常人なら致命傷となりえた事故の傷跡だけがありました。

 業を煮やしたマーダー・トラストは、ついに最後の手段にでます。
 再びマロイが彼らのバーに姿を現した時、マロイの体を押さえつけてガス管を咥えさせ、勢いよくガスを体に送り込みます。ついにガス殺人という手段によって、マロイ殺害が実行されたわけです。

 そして電気椅子へ

 マイケル・マロイの死因は、大葉性肺炎と診断されました。
 しかし、もぐりの酒場まで用意した上での30数回にも及ぶ度重なる殺人未遂、はたまた巷間に流れる「アイアン・マイク」の噂。

 マーダー・トラストたちの証言もあまりに多岐におよび埒があかず、その犯行は調査により、すぐに警察の知れるところとなってしまいます。
 それは取りも直さず、マイケル・マロイ殺害計画に30数回という失敗を重ねた彼らが、期せずして残してきた殺人の痕跡に他なりませんでした。

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 結局、マーダー・トラストの4人は電気椅子で処刑され、ハーシー・グリーン1人が刑務所で服役の処罰となったということです。

(Via.io9 / Smithsonian.com / Michael Malloy - Wikipedia)

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