120524LonelyScientist

 ピッチと呼ばれる粘弾性を持つ樹脂が液体であることを証明するために、ただひたすら見守り続ける、そんな実験があるそうです。

 クイーンズランド大学の初代物理学教授であった、故トーマス・パーネルが1927年に始めたのが「ピッチドロップ実験」と呼ばれる、観測による研究。
 実験は同大学のジョン・メインストーン教授に引き継がれましたが、実験開始から85年間で、滴下したピッチはわずか8滴。世紀を二度またぎそうな勢いで、メインストーン教授のプロジェクトXは続いています。

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(滴下実験の創始者トーマス・パーネル(1881-1948)。右画像は第一次世界大戦の後半、中尉として軍籍についていた当時の写真)

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(水の230億倍の粘度があるというピッチが滴り落ちるまでには、気が遠くなるほどの時間を要します)

 ピッチは常温では硬く、強い衝撃を与えると砕けますが、長時間では流動性を示します。この滴下実験は、ピッチが液体であることを証明するために行われているもの。初代パーネル教授が滴下実験を始めてから、最初の1滴が落ちるまでに8年を要したそうです。

 しかしパーネル教授は生涯で2適の成果を目にしただけで、1948年にこの世を去ってしまいます。ピッチの観察実験は同大学の教授であるジョン・メインストーン氏に引き継がれることとなりました。

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 メインストーン教授は研究を引き継いで以来、5滴のピッチの滴下を目撃する機会に恵まれながら、その全てを見逃してしまうという、運が悪いんだかウッカリさんなんだかよくわからない人物です。

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 実験が開始されたのは1927年。1930年に幹が切断されたことで実験がリセットされ、1938年12月に最初の滴下を観察。1947年2月に2回目の滴下を観察しましたが、翌48年、初代トーマス・パーネル没。
 1954年4月に3回目の滴下、1962年5月に4回目の滴下、1970年8月に5回目の滴下、1979年4月に6回目の滴下、1988年7月に7回目の滴下、2000年11月28日に8回目の滴下。

 しかし既述のように、メインストーンさんは担当した滴下の機会を全て見逃してしまうという、華々しい実績をあげている人物です。

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(ガラス製の漏斗に入れられたピッチを、メインストーン教授はひたすら観察し続けます)

 次の滴下が実現するのは今年か来年か、それとももっと先のことなのか、それは誰にもわかりません。しかも実験の目的であるピッチの液体の認定に至るには、あと一世紀かかると見積もられています。

 もはや滴下実験なのか、人間の根気に対する実験なのかもわからないくらいです。ただ、次の滴下をメインストーン教授がうっかり見逃さないように祈るばかり。

(Via.Mail Online / The Pitch Drop Experiment)

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