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 吸血鬼あるいは狼男として、時のドイツを恐怖に包んだ連続殺人犯、フリッツ・ハールマン。「フリードリヒ・ハインリヒ・カール・"フリッツ"・ハールマン」としても知られる、ドイツ・ハノーヴァー出身の同性愛者であり小児性愛者、また連続殺人者であり、食人鬼。

 飲んだくれで権威主義的な父と甘やかし放題の母、6人兄弟の末っ子で、幼年時代には兄から度重なる性的虐待を受けていたというハールマン。
 殺人鬼としては極めてありきたりな環境に育ったハールマンは、1918年から24年にかけて少なくとも24人の若い男を同性愛行為の末に殺害、死体を食肉として売りさばいていました。

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 士官学校に通っていた頃から幻覚にさいなまれ、仕事も手に付かなかったハールマンは、近所の子供たちへの性的虐待に熱中します。
 この行状は刑事訴訟に至り、「矯正できない意志薄弱」と認定されてヒルデスハイムの精神病院に収容されますが、彼は何度も逃げるようにスイスで過ごし、1899年に舞い戻ります。

 1905年には性感染症に罹り、これをきっかけに駅をうろつく若い浮浪者や家出少年たちを相手とする同性愛にハールマンを向かわせます。
 そして1919年、40代を迎えたハールマンは同性愛の関係を通して彼の共犯者となる、ハンス・グランスと知り合うこととなります。
 彼と出会った頃のハンスは20歳にも満たない容姿端麗な少年、そして魅惑的で残忍な小悪党でした。

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(ハンス・グランス)

 ハールマンによって殺害された最初の被害者は、フリーデル・ローテという少年。1918年に失踪したとされており、その後も犠牲者はハノーヴァー中央駅をうろついている若い男性浮浪者や男娼ばかり。

 ハールマンは彼らをアパートに誘い、男色行為中に犠牲者の喉を噛み破って殺害。一説には彼らの生き血をジュースのように飲みほしたとされており、当時の報道では、彼を「吸血鬼」と評していたようです。

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 およそ5年にわたったハールマンの殺人歴ですが、殺害は肉の調達だけでなく、もっぱらハンスの要求に応じる形で進められていたともいわれています。例えばその容姿の善し悪しや、衣服を奪うためだけに殺害された犠牲者もいたようです(ハールマンは古着の商人でもありました)。

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 また、ハールマンは解体した犠牲者の肉を豚肉として、あるいはソーセージに加工して売りさばいていたとされていますが、これを裏付ける証拠は見つかっていないのだとか。
 しかし近所の女性がレストランを所有し、彼から肉を買っていたという事実は判明しており、彼自身は「屍体の売り物にならない部分は棄てました。彼らはみな痩せていたので、私が食べてしまうと売り物になる部分はそんなには残りませんでした」と、自供しているという。

 犠牲者の数にも諸説あり、TruTV Crime Library は犠牲者は24人ではなく27人であると主張しており、牧逸馬(長谷川海太郎=林不忘)の著書によると、裁判記録にある犠牲者数は28人であるとのこと。また、ハールマン自身は少なくとも48人は殺したと豪語していたようです。

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 しかし警察がハールマンの常軌を逸した残虐な犯罪よりも、より隠し通したかったことは、彼が長く警察の便利屋として働いていたことであったかもしれません。
 事実、ハールマンは監獄仲間の手引きで肉の密売を始めた頃から、しばしば他の犯罪者を捜査官に引き渡す役割を担っており、警察の頼もしい「情報提供者」として重宝がられていたらしい。

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 ハールマン逮捕のきっかけは、彼がライネ川に廃棄した多数の白骨化遺体が下流に流れ着いたことだそうです。
 彼の裁判は大衆の注目を集め、ドイツにおいて主要なマスコミが大々的に報じた初の大事件の1つとなりました。また、当時はシリアルキラーという言葉が存在せず、「吸血鬼」あるいは「狼男」、また「性的サイコパス」と表現されていたようです。

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 ハールマンは1924年12月19日に全会一致の有罪判決を受け、1925年4月15日早朝にハノーヴァー地方裁判所の刑務所でギロチンによる斬首刑に処されています。

 一方のハンス・グランスは24件の殺人の内1つを教唆したとして有罪となり、同様に死刑を宣告されましたが、グランスの無実を明言するハールマンの手紙の開示により、2審では12年の禁固刑となったそうです。
 グランスは刑期を務め上げた後、1975年に亡くなるまでハノーヴァーのリックリンゲンに住み続けていました。

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(source.НОВОСТИ В ФОТОГРАФИЯХ / 殺人博物館 / ウィキペディア - フリッツ・ハールマン)

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