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 自然界に存在する糸の中で最も強度が高いとされるクモの糸は、同じ太さなら鋼鉄の5倍、伸縮率はナイロンの2倍もあるといわれ、研究者の間では長く夢の素材とされてきました。

 このほど発表された研究によると、遺伝子操作をほどこされたカイコが作る繭の絹糸(シルク)には、クモが巣を張る時に使う、伸縮性と強度に優れた繊維が組み込まれているといいます。

 研究を行ったのは、米ワイオミング大学による研究チーム。
 論文の共著者であり分子生物学者のドン・ジャービス氏によると、「カイコの絹糸(の遺伝子)にクモの糸のタンパク質(の遺伝子)を埋め込むことで、混成繊維になることを期待した」というもの。
 遺伝子操作をほどこされたカイコの紡ぎ出す糸は、96〜98%がカイコ由来のもの、その内2〜4%がクモ由来の繊維タンパク質によって構成されているそうです。

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 なんだそれだけか、とつい考えてしまいそうですが、これほどわずかなクモの遺伝子を取り込んだだけで、生み出されたハイブリッドシルクは天然の絹糸の2倍以上の強度を獲得したのだそうです。もっとも、それでも実際のクモの糸に比べれば半分程度の強度ではあるそうですが。

 しかし、「この(効果)を2〜4%から100%に上げられれば、実に驚くべき繊維を作れるはずだ」とジャービス氏は語っています。「それは、どの程度のクモの糸が可溶性の形で作られるかにかかっている」と。

 また、クモの多くは縄張り性が強く、共食いを行うため、産業用に飼育するのは困難です。そのため、これまでにもクモの糸のタンパク質の遺伝子を、例えばヤギの乳やハムスターの細胞に組み込む方法が試みられてきました。
 2009年には、慶大生命研院生がクモの糸の合成に成功したというニュースも流れました。

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(参考:ワイアードビジョン・アーカイブ

 こうした中でカイコを使う利点の一つは、タンパク質を自分で繊維にしてくれること。実験室でクモの糸のタンパク質を作り出すことができても、それを機械で紡いで糸にすることができなけれが意味がありません。
 そのため、ジャービス氏らはこの“クモ - カイコ”を作り出すために、クモの糸のDNAをカイコの卵に挿入したというわけです。

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 また、遺伝子操作の確認のために、カイコの卵には緑の蛍光タンパク質も加えられていました。これによって、操作が上手くいっていればカイコは青い光の下で蛍光発光する――はずだったのですが、不思議なことに、生み出された絹糸腺は通常の光の下でも発光したそうです。

 これには「まったく驚いた」とジャービス氏は話しています。

 この遺伝子操作によるクモ - カイコの生み出す繊維については、すでに商品化が検討されており、繊維開発メーカーのクレイグ・バイオクラフト・ラボラトリーズ社が積極的に動いているようです(ちなみに論文共著者の3人が同社の科学顧問を務めているとか)。

「利用法として考えているのは防弾チョッキではない。義肢や人工腱、パラシュート、空母の着艦ワイヤーなど、弾力性と強度が必要とされる状況での利用を目指している」

(source.ナショナルジオグラフィック / 参考:クモ - ウィキペディア)

 なお、この研究論文は「米国科学アカデミー紀要:Proceedings of the National Academy of Sciences.」誌のオンライン版に1月3日付けで掲載されています。

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