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 2011年を記録する上で、もっとも忘れてはならない出来事といえば、3月11日に発生した東日本大震災。
 しかし驚くべきことに、3.11の大震災以前と、その後とでは、津波に対する危機意識に逆の意味での変化が日本人に起こっているらしい。

 警鐘を鳴らすのは東京大学地震研究所の大木聖子(さとこ)助教。
 大木氏の研究によると、東北地方の地震と津波の後、日本(特に西日本)の住民は危険な津波があっても避難しない可能性が高くなったとのこと。
 同氏は12月5日(米国時間)、米国地球物理学会の年次大会で調査結果を発表し、「巨大な津波は人々に教訓を与えたわけではなく、逆に、人々の意識は以前より危険な状態になっている」と警鐘を鳴らします。

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(大木聖子助教)

 東北の震災のほぼ1年前、2010年のチリ地震の後に大木氏が行った調査では、危険な津波の高さを「10センチ〜1メートル」と答えた人は70.8パーセントに及んでおり、この高さで避難すると答えた人も60.9パーセントに及ぶという結果が出ていました。
 しかし東北震災の1カ月後に同じ調査を行うと、予想とは異なる結果が出たのだそうです。

 その調査によると、上記の数字は半分近くに減少。危険だと思う津波の高さを「10センチ〜1メートル」と答えた人はわずか45.7パーセントで、「この大きさの津波が近付いているという警告を聞けば、避難する」と答えた人はさらに減少し、38.3パーセントしかいませんでした。
 逆に、危険な高さを「5メートルから10メートル」と答えた人は、震災前の3.7パーセントから20.2パーセントにまで増加していたそうです。

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(※画像クリックで関連するTBS動画ニュースが開きます)

 大木氏の推測によると、この変化の原因は“アンカリング・ヒューリスティック”と呼ばれる心理効果と関係があるらしく、「一般の人は、与えられた先行情報を基に判断する傾向が強い」としています。

 アンカリングとは認知バイアスの一種で、特定の特徴や情報の断片を重視しすぎる傾向を意味します。
 個人の意思決定においては、まず特定の情報や値に過度に注目し、その後状況における他の要素を考慮して調整しますが、一般にこのような意思決定には「最初に注目した値についてのバイアス」が存在するのだそうです。

 このバイアスによるアンカリング効果にとって、「数字の大きさ」が重要な要素を占めます。

 わかりやすくいえば、津波におけるニュースが「未曾有の40メートルの津波」と繰り返すことによって、一般的な危険認識における津波の高さが少しずつ高くなっていくということのようです。
 
 例えば、「洪水による犠牲者の総数を予想する」といった課題を与えられた場合、最初に「年間1,100人が感電で命を落とす」というデータを与えられた場合と、「年間10,000人が自動車事故で命を落とす」というデータを与えられた場合とでは、後者の方が予想される犠牲者の数が多くなる。
 つまり、最初に与えられたデータの数字が大きいほど、それが「アンカーポイント」となり、予想される数字が増加するよう作用するのだそうです。

 このアンカリング効果に対する解決策について、大木氏は「巨大な津波の数字と併せて“正しい情報”を出すことだ」と話しています。
 リンクした動画が示すように、実際には高さ30センチの津波でも波にさらわれる危険性はありますし、2メートルの津波では家が押し流される危険性もあります。
 過剰に危機感をあおることは慎まねばなりませんが、同時に正しいデータを忘れないことが必要なようです。

(source.「震災後、津波への警戒感が低下」その理由 / TBS News)

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