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 多細胞生物の生息限界が、地球内部に向けて大きく拡大した――そう語るのはプリンストン大学の地球微生物学者、タリス・オンストット氏。
 地下3.6キロという想像を絶する深度で発見された線虫は、ファウストの伝説に登場する悪魔、メフィストフェレスにちなんでハリケファロブス・メフィスト(Halicephalobus mephisto)と名付けられました。

 この発見は、地下深くにこれまで知られていなかった豊かな生物圏が存在することを示唆するもので、同氏はさらに、「小さな生き物と思えるだろうが、私にとってはオンタリオ湖でクジラを見つけたほどの驚きだ。この生物はエサの細菌よりも何百万倍も大きいんだ」と語っています。

 オンストット氏と、ベルギー、ヘント大学の線虫学者ハエタン・ボルホニー氏が”悪魔の虫”を発見したのは、南アフリカの金鉱の底深く。
 その時点では、この奇跡の線虫が鉱夫によって持ち込まれたものか、岩から出てきたものかの確信を持てなかった研究チームでしたが、1年をかけたボーリング作業とサンプル回収を繰り返すことで、ついに地中深くのいくつかの岩の中から線虫を発見します。

 これまでは数10メートルの深さまでしか線虫の生息は確認されておらず、数キロの深さでの生息が知られていたのは微生物のみ。ハリケファロブス・メフィストは0.5ミリの小さなサイズですが、そうした微生物を餌として生息していると考えられています。
 さらに線虫が見つかった水の同位体年代の測定から、この水が3000〜1万2000年前のものであることがわかったそうです。つまりハリケファロブス・メフィストはこの深度の極端な高圧と高温の中で生存できるように進化してきたことを示しており、また数千年以上も前からこの地下に生息していたことを示唆しています。

「火星のような惑星の地下には、細菌しか存在できないと普通は考えられている。だが今回の発見は、ちょっと待てと言っている」
 とオンストット氏は語ります。
「小さな緑の宇宙微生物ではなく、小さな緑の宇宙虫を探そうという考えを否定することはできない」

(source.ナショナルジオグラフィック ニュース)

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石橋 信義

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